「給与に不満があった」「人間関係が合わなかった」「将来性を感じられなかった」
退職者からこうした理由を聞き、給与を見直したり、配置転換を行ったりしても、なぜか離職が減らない。
そんな経験はないでしょうか。
退職者が語る理由は、本人が感じている不満や退職のきっかけを知るための重要な情報です。しかし、その言葉が、企業として改善すべき根本原因をすべて説明しているとは限りません。
例えば「給与が低い」という理由の背景には、給与水準そのものの問題だけでなく、評価への不満や業務負荷との不均衡が隠れている場合もあります。
重要なのは、退職理由を疑うことではなく、その理由が生まれた背景を確認することです。
本記事では、退職者の発言を組織改善につなげるために、離職原因の見極め方と、同じ問題を繰り返さないための対策を解説します。
退職理由と離職原因は同じではない
退職者が伝える理由と、実際に退職を決断するまでの背景は、必ずしも一致しません。
例えば、「給与が低い」と話した社員がいたとします。
その言葉だけを受け取れば、給与を引き上げることが対策に見えます。しかし、実際には次のような問題が考えられます。
- 同業他社と比較して給与水準が低い
- 成果を出しても昇給につながらない
- 業務量や責任に対して報酬が見合っていない
- 将来どの程度昇給できるのか分からない
これらは似ているようで、必要な対策が異なります。
給与水準が低ければ賃金制度の見直しが必要かもしれません。一方、評価への不満が原因なら、給与額だけを変えても問題が残る可能性があります。
つまり、退職理由は原因分析の出発点であって、必ずしも結論ではないのです。
※上記は考えられる背景の例です。 実際の原因は、本人の発言や職場の状況などを踏まえて確認する必要があります。
退職理由には、複数の要因が重なっていることもある
退職の決断は、一つの出来事だけで生じるとは限りません。
例えば、以前から評価への不満を感じていた社員が、上司との関係悪化をきっかけに転職を決める場合もあります。
この場合、「人間関係」が退職の直接的なきっかけだったとしても、それ以前から蓄積していた評価への不満を見落とすと、同じ問題が繰り返される可能性があります。
また、家庭の事情や健康上の理由など、会社の制度やマネジメントだけでは解決できない要因もあります。
すべての離職を組織の問題として扱うのではなく、会社として改善できる部分と、そうでない部分を区別することも重要です。
退職者の発言を尊重しながら、その背景にある複数の要因を整理することが、適切な離職対策につながります。
退職理由をそのまま対策に変えてはいけない
退職者から理由を聞くと、企業は何らかの改善策を講じようとします。
しかし、退職理由だけを根拠に対策を決めると、問題の一部しか解決できないことがあります。
例えば、「人間関係が悪い」という理由を聞いて、上司や部下の配置を変更したとします。
ところが、実際には管理職の指導方法や業務分担に問題があった場合、配置を変えても別の部署で同じ問題が起きる可能性があります。
また、「将来性がない」という理由に対して会社の成長戦略を説明しても、本人が不安を感じていたのは、自分自身のキャリアや昇格の見通しだったというケースも考えられます。
退職理由に対してすぐに解決策を考えるのではなく、何がその不満を生み出していたのかを確認することが重要です。
| 退職理由 | NG|原因を確認しない対応 | OK|背景を確認する対応 |
|---|---|---|
| 給与が低い |
すぐに給与を上げる 不満の原因を確認せず、金額だけを変更する |
何に不満があるかを確認 給与水準、評価との関係、業務負荷を分けて調べる |
| 人間関係が悪い |
すぐに配置転換する 問題の背景を確認せず、人だけを入れ替える |
職場の問題を確認 指導方法、業務分担、職場環境などを調べる |
| 将来性がない |
会社の成長性だけを説明 本人が感じている不安を確認しない |
将来への不安を具体化 会社の経営状況と本人のキャリアの不安を分けて確認する |
| 仕事が合わない |
本人の適性だけの問題にする 採用や配属の過程を振り返らない |
期待と実態のズレを確認 採用時の説明、業務内容、教育体制などを確認する |
退職理由を聞いた時点で、原因を決めつけない
退職理由は、本人が感じた不満や退職のきっかけを知るための情報です。
しかし、その理由だけでは、問題が個人の事情によるものなのか、職場の運用によるものなのか、会社の制度によるものなのかまでは判断できません。
また、退職者がすべての事情を話しているとも限りません。会社との関係を悪化させたくない、詳しく説明する必要を感じないなどの理由で、当たり障りのない説明にとどめる場合もあります。
だからこそ、退職者の言葉を否定せず、ほかの情報と照らし合わせることが大切です。
個別の退職理由にその都度対応するだけでなく、同じ問題がほかの社員にも起きていないかを確認することで、組織として改善すべき課題が見えてきます。
離職の根本原因を見極める4つの視点
退職理由を聞いただけでは、組織として何を改善すべきかは判断できません。
大切なのは、退職者の発言を出発点として、ほかの情報と照らし合わせることです。
例えば、「上司と合わなかった」という退職理由があった場合、それが個人間の相性の問題なのか、管理職のマネジメントに共通する問題なのかによって、必要な対策は変わります。
その判断には、退職者の話だけでなく、在職者の状況や職場の実態を確認する必要があります。
離職原因を分析する際は、次の4つの視点から情報を整理すると、問題の所在を把握しやすくなります。
退職者の声
何が退職の決め手だったか?
不満が生まれた時期や、退職を決断したきっかけを確認する。
在職者の声
同じ問題が起きていないか?
面談や従業員調査などから、職場に共通する問題かを確認する。
制度・運用の実態
仕組みと現場にズレはないか?
評価・処遇・業務配分・管理職の運用実態を確認する。
離職データ
特定の部署や時期に偏りはないか?
部署別・勤続年数別などの傾向から、問題の兆候を探る。
退職者の発言と、組織の実態を照らし合わせる
4つの視点は、すべての退職案件で大規模な調査を行うためのものではありません。
例えば、同じ部署で短期間に複数の退職者が出ている場合は、退職理由の共通点に加え、管理職の指導方法や業務負荷などを重点的に確認します。
一方、勤続年数の短い社員の退職が続いている場合は、採用時に伝えた仕事内容と実際の業務にズレがないか、入社後の教育やフォローが十分だったかを確認する方が有効かもしれません。
また、退職者が1人しかいない場合や、人数の少ない部署では、離職率の数字だけで問題を判断しないことも重要です。
一つの情報で原因を決めつけず、複数の情報に共通して現れる問題を探す。
これが、退職理由を組織改善につなげるための基本的な考え方です。
離職原因が見えてきたら、改善の優先順位を決める
離職原因を分析すると、複数の組織課題が見つかることがあります。
例えば、ある部署で退職が続いている場合、業務負荷の偏り、管理職の指導方法、評価への不満などが同時に確認されることもあります。
しかし、見つかった問題をすべて同時に改善しようとすると、対策が分散し、何が効果を生んだのかも分かりにくくなります。
そこで重要なのが、「どの問題から着手すべきか」を判断することです。
優先順位を決める際は、次の3つの観点で整理します。
- 影響の大きさ: 離職や職場環境にどの程度の影響があるか
- 問題の広がり: 特定の社員だけでなく、ほかの社員にも生じているか
- 改善の実行可能性: 自社で改善できる内容か、どの程度の時間や負担が必要か
ただし、ハラスメントや安全上の問題、法令違反が疑われる場合は、通常の優先順位付けとは切り離して速やかに対応する必要があります。
具体例:同じ部署で退職が続いている場合
ある部署で、半年間に複数の社員が退職したとします。
退職理由を確認すると、「仕事が忙しい」「上司と合わない」「評価に納得できない」と、それぞれ異なる回答がありました。
しかし、勤務状況や在職者の声を確認したところ、特定の社員に業務が集中し、管理職が十分に業務配分を調整できていないという共通点が見つかったとします。
この場合、退職理由ごとに別々の対策を講じるよりも、まず業務配分と管理職の業務管理方法を見直す方が、問題の改善につながる可能性があります。
一方、評価制度への不満についても、評価基準が曖昧なのか、評価者による運用の違いがあるのかを確認し、必要に応じて改善を進めます。
このように、退職理由の数ではなく、複数の問題に共通する原因と、その影響の大きさから優先順位を判断することが重要です。
対策を実施した後の確認方法も決めておく
改善策を決める際には、実施後に何を確認するかも設定しておきましょう。
例えば、業務配分を見直すのであれば、特定の社員への業務集中が緩和されたか、残業時間や在職者の負担感に変化があったかを確認します。
離職率だけで効果を判断しようとすると、改善の結果が分かるまでに時間がかかることがあります。
そのため、離職率に加えて、改善対象となった職場の状態が変わっているかを確認することが大切です。
離職対策が失敗する会社の4つの共通点
離職原因を分析し、改善策を決めても、それだけで離職が減るとは限りません。
問題は、対策の内容だけでなく、実行方法にもあります。
例えば、管理職のマネジメントに課題があると分かっても、研修を一度実施しただけで終わってしまえば、日常の指導方法が変わらない可能性があります。
また、評価制度を見直しても、評価者ごとの判断や面談の進め方が変わらなければ、社員の納得感が改善しないこともあります。
離職対策が十分な成果につながらない会社には、次のような共通点が見られます。
対策が一度きりで終わる
管理職研修を実施して、改善したことにする。
研修後の行動や職場の変化を確認していない。
研修後の面談・指導方法を確認し、継続的に支援する。
制度変更だけで満足する
評価制度や昇給ルールを変更して終了する。
現場での運用が変わらず、不満が残ってしまう。
評価者への説明や面談運用まで見直す。
現場任せにしてしまう
部署の問題は管理職に任せ、会社として関与しない。
管理職だけでは解決できない問題が放置される。
人事・経営層も関与し、権限や支援体制を整える。
改善効果を確認しない
対策を実施した後、次の退職者が出るまで何もしない。
問題が改善したのか、判断できない。
職場の負担感や運用状況を定期的に確認する。
離職対策は「実施したか」ではなく「何が変わったか」で判断する
離職対策の成果を確認する際に注意したいのは、施策の実施そのものを成果と捉えないことです。
例えば、管理職研修の実施回数や評価制度の改定は、あくまで取り組みの実績です。
本来確認すべきなのは、管理職の指導方法が変わったか、評価の説明が十分に行われるようになったか、社員の不満が軽減されたかといった変化です。
そのためには、対策ごとに担当者と確認時期を決め、改善状況を継続的に把握する必要があります。
離職対策は、施策を実施した時点ではなく、問題が改善したかを確認して初めて評価できるものです。
ただし、離職率は景気や採用状況、社員構成などの影響も受けるため、短期間の数字だけで対策の効果を断定しないことも重要です。
自社の離職対策を点検するチェックリスト
離職対策がうまく機能していない場合、退職理由の聞き取りから改善策の実行まで、どこかの段階に見落としがある可能性があります。
そこで、自社の取り組みを確認できるチェックリストを用意しました。
退職者への対応だけでなく、在職者の状況把握、組織課題の分析、改善策の実行・検証までを確認できます。
現在できている項目にチェックを入れてください。 チェックが付かなかった項目は、今後の改善を検討する際の手がかりになります。
01|退職理由の把握
02|組織課題の分析
03|改善策の実行
04|効果の確認
未チェック:12項目
チェックが付かなかった項目から改善を検討する
このチェックリストは、離職リスクを点数化する診断ではありません。
チェック数が多いからといって、必ずしも離職が少ないとは限らず、チェック数が少ないからといって、直ちに組織に重大な問題があるとも限りません。
重要なのは、未チェックの項目から、自社の取り組みで不足している部分を見つけることです。
例えば、退職理由の聞き取りは行っていても、在職者の声を確認していない場合は、組織全体の状況を把握する仕組みを検討する必要があります。
また、改善策を実施していても効果を確認していない場合は、担当者や確認時期を設定することが次の一歩になります。
すべての項目を一度に改善しようとせず、自社にとって重要な課題から着手しましょう。
まとめ|退職理由ではなく、その背景にある問題を改善する
退職者が語る理由は、離職の背景を理解するための重要な情報です。しかし、その言葉だけで原因を判断し、対策を決めてしまうと、同じ問題が繰り返される可能性があります。
離職を防ぐために重要なのは、退職理由を疑うことではありません。本人の発言を尊重しながら、組織として改善すべき課題を見極めることです。
そのためには、退職者の声だけでなく、在職者の状況や制度・運用の実態などを確認し、原因の仮説を検証する必要があります。
また、改善策を実施して終わりにするのではなく、職場にどのような変化が生じたかを確認することも欠かせません。
すべての退職を防ぐことはできません。しかし、組織に共通する問題を把握し、改善を積み重ねることで、防ぐことができたはずの離職を減らすことにつながります。
HRButler|人事・組織課題のご相談
離職が繰り返される原因を、
組織の仕組みから見直しませんか?
退職理由を聞いて対策しても、なかなか改善につながらない。
そんな場合は、評価制度やマネジメントの運用など、
組織の仕組みに目を向けることが重要です。
HRButlerでは、人事制度の構築・改善を通じて、
組織課題の解決を支援しています。
コメント