「社員が増えて、社長一人では全員の働きぶりを把握できなくなってきた」
「昇給や昇格を決めるたびに、明確な基準がないことが気になる」
「評価する上司によって評価結果が変わってしまう」
会社が成長して社員数が増えてくると、それまで経営者の感覚で行っていた評価や給与決定が難しくなる場面が増えてきます。
そこで必要になるのが、人事評価制度です。
しかし、人事評価制度を作ろうとして、いきなり「評価項目」や「評価シート」から作り始めるのはおすすめできません。
人事評価制度は、単に社員に点数をつける仕組みではないからです。
会社が社員に何を期待するのか。
何ができれば次の役割に進めるのか。
何を評価し、その結果を昇給や昇格にどう反映するのか。
これらを一つの仕組みとして設計する必要があります。
この記事では、日本の中小企業が人事評価制度をゼロから作る場合に、何をどの順番で決めればよいのかを具体的に解説します。
中小企業に人事評価制度が必要になる理由
社員が数名程度の会社であれば、経営者が一人ひとりの働きぶりを把握し、その都度判断することも可能です。
ところが、社員数が10人、20人、30人と増えていくにつれて状況は変わります。
経営者がすべての仕事を見ることができなくなり、部門長や管理職を通じて社員を評価する必要が出てくるからです。
実際、中小企業庁の「2025年版 中小企業白書」では、人事評価制度を設けている事業者は全体では約4割ですが、従業員規模が大きくなるほど導入割合が高まり、従業員30名超の事業者では過半数が人事評価制度を設けています。
また、同白書では、30名を超える事業者について、人事評価制度を設けている事業者のほうが、設けていない事業者より「定着率7割以上」の割合が高いという結果も示されています。
もちろん、人事評価制度を導入すれば必ず定着率が上がるという因果関係を示すものではありません。
しかし、社員数が増え、経営者が全員を直接評価することが難しくなるほど、評価の基準を明確にする重要性は高まると考えられます。
人事評価制度がない会社で起こりやすいこと
評価基準が明文化されていない会社では、例えば次のような問題が起こります。
- 上司によって評価基準が違う
- 声の大きい社員が評価される
- 経営者へのアピールが上手な社員が有利になる
- なぜ昇給したのか社員に説明できない
- 昇格の基準が分からない
- 頑張っても何を改善すれば評価されるのか分からない
- 管理職が部下を評価できない
- 評価結果に社員が納得できない
経営者側には悪意がなくても、基準が共有されていなければ、社員からは「社長の好き嫌いで決まっている」と見えることがあります。
人事評価制度には、こうした経営者や管理職の頭の中にある判断基準を、社員にも分かる形にする役割があります。
人事評価制度とは「評価シート」のことではない
人事評価制度を作るときに最も注意したいのが、
「評価制度=評価シート」
と考えてしまうことです。
インターネットで評価シートのテンプレートを探し、
「責任感」
「協調性」
「積極性」
「コミュニケーション能力」
などの項目を並べても、それだけでは人事評価制度にはなりません。
例えば、社員から次のように質問されたとします。
「主任になるには何ができればいいですか?」
「評価がAなら給料はいくら上がりますか?」
「営業と事務では評価基準は同じですか?」
「3点と4点の違いは何ですか?」
「誰が最終評価を決めるのですか?」
これらに答えられなければ、評価シートはあっても、人事制度としては十分に設計されていません。
人事制度は、大きく整理すると次のようにつながっています。

このつながりを意識することが、人事評価制度を作るうえで非常に重要です。
人事評価制度を作る7つのステップ
中小企業がゼロから人事評価制度を作る場合、基本的には次の順番で考えます。


STEP1|人事評価制度を作る目的を決める
最初に決めるのは評価項目ではありません。
**「なぜ評価制度を作るのか」**です。
例えば、
- 社員の成長を促したい
- 昇給の基準を明確にしたい
- 管理職による評価のばらつきを減らしたい
- 会社が求める人材像を明確にしたい
- 次世代の管理職を育成したい
- 社員の定着率を高めたい
- 成果を適切に処遇へ反映したい
など、会社によって目的は異なります。
ここを曖昧にしたまま制度を作ると、評価項目だけが増え、何のために評価しているのか分からなくなります。
特に中小企業では、大企業の評価制度をそのまま持ってくるのではなく、自社が現在抱えている組織課題から逆算することが重要です。
例えば、
「管理職が育っていない」
という課題があるのであれば、管理職に求める役割を明確にし、その役割を評価項目へ落とし込む必要があります。
「若手社員が何を頑張れば昇格できるか分からない」
のであれば、等級ごとの役割や昇格基準を明確にする必要があります。
評価制度は、会社の課題を解決するための手段です。
STEP2|現在の組織・給与・役職を整理する
次に、現在の会社の状態を整理します。
最低限確認したいのは、
- 組織図
- 職種
- 役職
- 社員ごとの給与
- 昇給履歴
- 賞与の決め方
- 現在の評価方法
- 実際に社員が担っている役割
などです。
ここで重要なのが、「制度上の役職」と「実際の役割」が一致しているかを見ることです。
例えば、
同じ「課長」という役職なのに、
Aさんは10人の部下をマネジメントしている。
Bさんは部下がおらず、自分の業務だけを担当している。
という会社も珍しくありません。
この状態のまま「課長用評価シート」を作っても、適切な評価はできません。
まず現状を整理し、
誰が、どのレベルの仕事を担っているのか
を明らかにする必要があります。
STEP3|等級と役割を決める
次に、「会社としてどのような社員を評価するのか」を整理します。
ここで役立つのが等級制度です。
例えば、シンプルな会社であれば、
| 等級 | 役割のイメージ |
|---|---|
| 1等級 | 指示を受けながら基本業務を遂行できる |
| 2等級 | 担当業務を一人で安定して遂行できる |
| 3等級 | 後輩を指導しながら業務改善ができる |
| 4等級 | チームの目標達成に責任を持つ |
| 5等級 | 部門をマネジメントし、会社目標の達成に貢献する |
といった形です。
重要なのは、等級を増やすことではありません。
社員が、
「次の等級になるには、今と何が違うのか」
を理解できることです。
社員数20~30名程度の会社なのに10段階以上の細かな等級を作ると、運用が複雑になる場合もあります。
中小企業では、会社規模や組織構造に合わせ、必要以上に複雑にしないことが大切です。
STEP4|評価項目を決める
等級ごとの役割が決まったら、ようやく評価項目を作ります。
評価項目は一般的に、
①成果・業績
- 売上
- 粗利益
- 契約件数
- 生産量
- 納期
- ミス率
- プロジェクト達成度
②能力
- 業務知識
- 問題解決力
- 提案力
- マネジメント力
- 指導力
③行動・姿勢
- 主体性
- 協働
- 顧客対応
- 改善行動
- 会社方針の実践
などに分けて考えることができます。
ただし、すべての社員を同じ項目で評価する必要はありません。
例えば営業職と経理職では、期待される成果が違います。
一般社員と管理職でも、求められる役割は違います。
職種と等級に応じて「何を評価するべきか」を考えることが重要です。
厚生労働省では、仕事に必要な知識・技能・職務行動を業種・職種別に整理した「職業能力評価基準」を公開しています。
自社の評価項目をゼロから考える場合には、このような公的な基準を参考にしながら、自社の仕事内容に合わせて調整する方法もあります。
STEP5|評価基準を具体化する
評価項目以上に重要なのが、評価基準です。
例えば、
「主体性 5点満点」
だけでは、評価者によって判断が変わります。
A部長は、
「言われる前に仕事をすれば4点」
と考えるかもしれません。
B部長は、
「新しい改善提案までしなければ4点はつけない」
と考えるかもしれません。
これでは制度を作っても評価のばらつきはなくなりません。
そのため、
何ができれば何点なのか
を可能な限り具体的にします。
例えば「業務改善」という評価項目なら、
| 評価 | 基準例 |
|---|---|
| 5 | 部門全体に効果のある改善を自ら提案し、実行・定着まで行っている |
| 4 | 担当業務の改善を自ら提案し、実行している |
| 3 | 求められる方法で安定して業務を遂行している |
| 2 | 改善すべき課題があるが、自ら対応できていない |
| 1 | 業務遂行上の問題が継続し、改善も見られない |
というように、できるだけ「行動」で判断できる状態にします。
「積極的である」
「責任感がある」
「コミュニケーション能力が高い」
といった抽象的な表現だけでは、評価者の主観が入りやすくなります。
STEP6|評価結果と給与・昇格の関係を決める
ここは中小企業の人事制度設計で特に慎重に考える必要があります。
評価制度を導入すると、社員は当然、
「この評価は給与にどう影響するのか」
と考えます。
例えば、
S評価:昇給幅 大
A評価:昇給幅 中
B評価:標準昇給
C評価:昇給なし
D評価:要改善
というルールを作る方法もあります。
しかし、単純に評価点と昇給額を直結させればよいわけではありません。
会社が支払える総人件費には限界があります。
また、
- 現在の給与水準
- 等級
- 役割
- 市場賃金
- 会社業績
- 昇給原資
なども考慮する必要があります。
評価制度だけを先に作り、後から給与制度につなげようとすると、
「高評価者が多すぎて、想定以上の昇給原資が必要になった」
といった問題も起こります。
評価制度と給与制度は別々に考えるのではなく、最初から接続を意識して設計することが重要です。
STEP7|評価・面談・見直しの運用方法を決める
制度を作ったら終わりではありません。
むしろ、人事評価制度は運用が始まってからが本番です。
例えば、
- 期初に目標を設定する
- 上司と本人で目標を確認する
- 期中に進捗確認を行う
- 期末に自己評価を行う
- 一次評価者が評価する
- 必要に応じて二次評価を行う
- 評価会議で部門間のばらつきを調整する
- 評価結果を確定する
- 評価面談で本人へフィードバックする
- 次期の目標・育成課題を決める
といった流れを決めておきます。

評価シートを年に1回記入するだけでは、人材育成にはつながりにくくなります。
評価結果を本人へ伝え、
「何が評価されたのか」
「何が不足していたのか」
「次に何を期待しているのか」
まで共有することが重要です。
中小企業の評価制度は複雑にしすぎない
人事評価制度を作り始めると、
「もっと公平にしたい」
という思いから制度を細かくしすぎることがあります。
例えば、
- 評価項目が20~30個ある
- 等級が10段階以上ある
- 職種ごとに大量の評価シートがある
- 評価点の計算式が複雑
- 評価するだけで何時間もかかる
といった制度です。
しかし、制度が精密であることと、公平であることは同じではありません。
特に専任の人事担当者がいない中小企業では、複雑な制度を作るほど管理職の負担が増え、最終的に運用されなくなる可能性があります。
大切なのは、
「理論上完璧な制度」ではなく、「自社で運用し続けられる制度」
を作ることです。
人事評価制度を作るときに避けたい5つの失敗
1.他社の評価シートをそのまま使う
同じ業界でも、会社によって戦略や求める人材は違います。
テンプレートは参考にはなりますが、そのまま自社の評価制度になるわけではありません。
2.評価項目から作り始める
評価項目の前に、制度の目的、役割、等級を整理する必要があります。
順番を逆にすると、評価項目と会社が求める人材像がつながらなくなります。
3.抽象的な言葉だけで評価する
「主体性」「責任感」「協調性」といった言葉だけでは、評価者によって解釈が変わります。
具体的な行動基準まで決めることが必要です。
4.評価制度と給与制度を別々に作る
評価結果を処遇へ反映するのであれば、給与制度との整合性が必要です。
評価だけ先に設計すると、実際の昇給時に矛盾が発生することがあります。
5.制度を作れば公平になると考える
どれだけ細かな基準を作っても、人が人を評価する以上、判断のばらつきを完全になくすことは困難です。
そのため、
- 評価者研修
- 評価会議
- 評価基準の共有
- フィードバック
- 制度の定期的な見直し
まで含めて運用する必要があります。
人事評価制度を変更するときは就業規則との整合性にも注意する
人事評価制度を新しく作ったり変更したりする際には、制度設計だけでなく労務面の確認も必要です。
特に評価結果を、
- 昇給
- 降給
- 賞与
- 昇格・降格
- 各種手当
などに反映する場合には、既存の就業規則や賃金規程との整合性を確認する必要があります。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準法により就業規則の作成・届出が必要とされており、就業規則を変更した場合も届出が必要です。
また、制度変更によって労働条件に影響する場合には、単に新制度を社員へ通知すればよいとは限りません。
制度設計と労務上の対応は分けて考えず、必要に応じて社会保険労務士などの専門家へ確認することも重要です。
人事評価制度はどのくらいの会社から必要なのか
「社員が何人になったら評価制度を作るべきか」という明確な基準があるわけではありません。
10名でも必要な会社もあれば、20名でも経営者が十分に把握できている会社もあります。
ただし、
- 社長が全社員の仕事を把握できなくなった
- 管理職が部下を評価するようになった
- 昇給や昇格の説明が難しくなった
- 部門によって評価に差が出ている
- 社員から評価や給与について質問されるようになった
といった状況が出てきたら、一つのタイミングと考えられます。
中小企業庁の2025年版中小企業白書でも、従業員規模が大きくなるほど人事評価制度を導入している割合が高くなっています。
人数そのものより、**「経営者の直接管理だけでは組織を運営できなくなってきたか」**を見ることが重要です。
人事評価制度は一度作って完成ではない
事業内容や組織は変化します。
10名だった会社が30名になれば、管理職の役割も変わります。
一つの事業しかなかった会社が複数事業を展開すれば、職種や評価すべき成果も変わります。
そのため、人事評価制度も定期的な見直しが必要です。
実際、中小企業庁も、企業の成長にあたっては人事評価制度を導入するだけでなく、外部環境や内部環境の変化に合わせて制度を見直していく重要性を指摘しています。
制度が会社の実態に合わなくなっているにもかかわらず、
「昔からこの評価シートだから」
という理由だけで使い続けると、評価制度そのものが形骸化してしまいます。
まとめ|人事評価制度は「会社が社員に何を求めるか」を言葉にする仕組み
人事評価制度を作る目的は、社員に点数をつけることではありません。
会社が、
どのような仕事を期待し、
どのように成長してほしくて、
何を評価し、
その結果をどのように処遇するのか。
これを社員と共有できる状態にすることが重要です。
そのためには、
①制度の目的を決める
②現状を整理する
③等級と役割を決める
④評価項目を決める
⑤評価基準を具体化する
⑥給与・昇格との関係を決める
⑦運用方法を決める
という順番で考えていく必要があります。
特に中小企業では、大企業の制度をそのまま真似するのではなく、自社の規模・事業・管理職の力量に合わせて、実際に運用できる制度を作ることが大切です。
評価制度を作ったものの、
「評価基準が曖昧になっている」
「給与制度とうまく連動していない」
「管理職によって評価がばらつく」
「制度を作ったが運用できていない」
という状態になると、制度を導入した意味が薄れてしまいます。
HR BUTLERでは、中小企業の組織規模や事業内容、現在の給与・役職体系などを整理したうえで、制度を作ることだけでなく、実際に運用できる人事評価制度の設計・見直しを支援しています。
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