「評価制度を作りたいんだけど、これって自社でできないの?」
社長からそう聞かれ、人事担当者が答えに詰まる。
インターネットで調べれば、評価シートのテンプレートも見つかります。書籍を読めば、等級制度や評価制度、賃金制度の基本的な考え方も分かります。
一方、人事コンサルティング会社に相談すると、決して小さくない費用がかかります。
「わざわざ外部に頼む必要があるのだろうか」
これは、人事制度の構築や見直しを検討する企業から実際によく聞かれる疑問です。
結論から言えば、人事制度は必ずしも外部に依頼しなければ作れないものではありません。
ただし、「制度を作ること」と「自社で機能する制度を作ること」は、少し違います。
今回は、人事制度を外部に依頼するメリット・デメリットと、自社で構築する場合との違いについて考えてみます。
人事制度の構築が想像以上に難しい理由
人事制度というと、「評価項目や評価シートを作る仕事」と思われることがあります。
しかし、実際にはそれだけではありません。
例えば評価制度を変更すると、次のような話がつながってきます。
「この人はどのレベルの仕事を期待されているのか」
「評価結果を昇給や賞与にどう反映するのか」
「管理職と一般社員では何を評価するのか」
「営業と事務を同じ基準で評価してよいのか」
一つ決めると、別の論点が出てきます。
つまり人事制度は、評価シート単体ではなく、等級・評価・給与など複数の仕組みを整合させながら設計する必要があるものです。
さらに難しいのは、制度として正しくても、現場で使えるとは限らないことです。
ここには大きく「制度」「運用」「人」の3つの問題があります。
制度の問題
評価基準や等級、給与との連動に矛盾がないか。
例えば、評価では「高い成果」を求めているのに、昇格基準では勤続年数が強く影響する設計になっていれば、社員からすると「結局、何を頑張ればいいのか」が分かりません。
運用の問題
制度を作ったあと、誰がどのように運用するのか。
評価者研修、目標設定、評価面談、評価調整など、制度を機能させるための仕事は導入後も続きます。
特に人事専任者がいない中小企業では、制度が複雑になるほど運用負担が大きくなります。
人の問題
そして最も難しいのが、人による判断の違いです。
例えば同じ「主体性」という評価項目でも、
「言われる前に仕事をしたら高評価」
と考える管理職もいれば、
「部署の課題を自分で見つけ、改善までして初めて高評価」
と考える管理職もいます。
制度上は同じ言葉でも、評価する人によって意味が違えば、評価結果はばらつきます。
人事制度の構築では、こうしたズレまで想定する必要があります。
人事制度を外部に依頼する3つのメリット
1.社内だけでは気づきにくい矛盾を発見できる
長く同じ会社で働いていると、その会社独自のルールが「当たり前」になります。
例えば、
「課長だけれど部下はいない」
「役職は違うのに仕事内容はほぼ同じ」
「評価は5段階だが、ほとんどの社員が真ん中の評価になる」
こうした状態も、長年運用していると違和感が薄れていきます。
外部の人間が入るメリットの一つは、この「社内では当たり前になっている違和感」を客観的に整理できることです。
2.制度同士のつながりを考えて設計できる
評価制度だけを変更した結果、給与制度や等級制度と矛盾してしまうケースがあります。
評価制度を変えるなら、その結果を給与にどう反映するのか。
役割を明確にするなら、昇格・降格をどう考えるのか。
制度全体を見ながら設計することで、「評価シートはできたけれど、その先が決まっていない」という状態を防ぎやすくなります。
3.社内の意見を整理する第三者になれる
実務では、これが意外に大きなメリットです。
経営者は、
「もっと成果を評価したい」
と考えている。
管理職は、
「成果だけでは現場の頑張りを評価できない」
と考えている。
社員は、
「そもそも何を評価されているのか分からない」
と感じている。
誰かが間違っているわけではありません。
見ている立場が違うのです。
外部の専門家が入ることで、それぞれの意見を整理し、「この会社では何を大切にする制度にするのか」を客観的にまとめやすくなります。
人事制度を外部に依頼するデメリット
もちろん、外注すればすべて解決するわけではありません。
1.一定の費用がかかる
当然ですが、自社で作る場合と比較すればコストが発生します。
会社規模や構築する制度の範囲によっては、決して安い投資ではありません。
だからこそ、「何をどこまで依頼するのか」を明確にすることが重要です。
2.コンサルタント任せにすると自社に合わない制度になる
外部に依頼するときに最も注意したい点です。
業界では一般的な制度でも、自社に合うとは限りません。
例えば、数百人規模の企業では問題なく運用できる仕組みでも、人事専任者がいない30人の会社では運用できないことがあります。
制度として高度であることと、その会社に適していることは別です。
3.制度完成後に社内で運用できなくなることがある
外部の専門家がいないと運用できない制度を作ってしまうと、導入後も外部依存が続きます。
人事制度は、一度作れば終わりではありません。
社員構成や事業内容が変われば、制度も少しずつ見直していく必要があります。
そのため、構築段階から「将来的に自社で運用できるか」という視点を持っておくことが重要です。
人事制度構築でよくある3つの間違い
1.テンプレートをそのまま使う
評価項目を作ること自体は、それほど難しくありません。
問題は、その項目が自社の仕事に合っているかです。
「主体性」「協調性」「責任感」。
言葉としては正しくても、建設会社の現場社員と介護施設の職員では、求められる行動は違います。
抽象的な言葉だけでは、評価する人によって解釈が変わってしまいます。
2.社長だけで制度を決める
中小企業では、社長が社員のことをよく見ているケースも多くあります。
そのため、社長の考えを制度に反映すること自体は重要です。
ただし、社長の頭の中にある「良い社員像」が、そのまま社員や管理職に伝わるとは限りません。
制度構築では、その感覚を具体的な言葉や基準に変換する作業が必要になります。
3.完成度を上げすぎる
意外かもしれませんが、人事制度は細かく作れば良いわけではありません。
評価項目を増やし、ルールを細かく設定すれば、制度としては精密になります。
しかし、現場が理解できず、評価者が使いこなせなければ意味がありません。
特に中小企業では、制度の精密さより「実際に運用できるか」を優先した方がよいケースが多くあります。
外注すべき会社、自社で作れる会社
では、人事制度は外部に依頼すべきなのでしょうか。
社内に人事制度の構築経験者がいて、制度設計に十分な時間を使え、経営者・管理職との調整までできるのであれば、自社で構築することも十分可能です。
一方、
「人事担当者が他の業務を兼務している」
「社長の頭の中には基準があるが言語化できていない」
「既存制度を直したいが、どこが問題なのか分からない」
「評価と給与のつなぎ方が整理できていない」
といった企業では、外部の専門家を活用する意味があります。
ただし、重要なのは「制度を作ってもらうこと」ではありません。
自社が大切にしていることを整理し、それを社員に伝わる仕組みに変えるために外部を使うことです。
人事制度は、コンサルタントのものではありません。
最終的に制度を使うのは、社長であり、管理職であり、社員です。
だからこそ外部に依頼する場合でも、丸投げするのではなく、一緒に考えながら「自社で運用できる制度」にしていくことが重要だと考えています。
人事制度を自社で構築するか、外部に依頼するか迷っている段階でも構いません。自社に合った進め方から整理したい方は、お気軽にご相談ください。