人事制度構築が失敗する理由|よくある3つの落とし穴

「せっかく評価制度を作ったのに、結局みんな前年と同じような評価になっている」

評価会議を終えた社長から、こんな言葉が出る。

管理職に話を聞くと、

「評価基準を読んでも、正直どこまでできたらAなのか分からない」

社員からは、

「評価制度が変わったらしいけど、何が変わったのかよく分からない」

という声が出てくる。

評価シートはある。評価項目も決まっている。面談も実施している。

それでも、なぜか制度が機能している感じがしない。

人事制度構築で難しいのは、「制度を完成させること」と「制度が会社の中で機能すること」は別だという点です。

今回は、実際の人事制度構築で起こりやすい失敗と、その背景について解説します。

人事制度は「作った瞬間」には成功していない

人事制度を作るプロジェクトでは、どうしても制度完成がゴールになりがちです。

等級を決める。

評価項目を決める。

評価基準を決める。

給与への反映方法を決める。

評価シートを完成させる。

ここまで来ると、「ようやく制度が完成した」と感じます。

しかし、本当の意味で制度が機能するかどうかが分かるのは、その後です。

実際に管理職が評価する。

社員が評価を受ける。

評価面談を行う。

評価結果を昇給や賞与などに反映する。

そこで初めて、設計段階では見えていなかった問題が出てきます。

なぜなら、人事制度には「制度」「運用」「人」という3つの要素があるからです。

制度が正しくても、運用できなければ機能しません。

運用方法が決まっていても、評価する人によって解釈が違えば結果はばらつきます。

つまり、人事制度の失敗は、評価シートだけを見ても原因が分からないことが多いのです。

失敗例1.評価項目を細かく作りすぎる

人事制度をしっかり作ろうとすると、評価項目を増やしたくなります。

「責任感」
「主体性」
「協調性」
「コミュニケーション」
「改善意識」
「顧客志向」
「専門知識」
「部下育成」

どれも大切に見えます。

さらに、それぞれについて詳細な評価基準を作れば、かなり立派な評価シートになります。

ところが実際の評価時期になると、管理職からこんな声が出ます。

「項目が多すぎて、一人評価するだけでも時間がかかる」

社員20人を評価する管理職なら、それだけで相当な負担です。

結果として、一つひとつの項目を丁寧に判断するのではなく、社員に対する全体的な印象から評価を付けてしまうことがあります。

これでは、細かく制度を作った意味がありません。

特に人事専任者がいない中小企業では、制度の完成度を高めることより、現場が継続して運用できることの方が重要になる場合があります。

失敗例2.評価基準を作ったのに評価が揃わない

例えば「主体性」という項目について、

「指示を待たず、自ら考えて行動できる」

という評価基準を作ったとします。

一見すると分かりやすそうです。

しかし、実際に評価してみると問題が起きます。

ある管理職は、

「言われる前に仕事を進めたから高評価」

と判断する。

別の管理職は、

「自分で課題を発見し、改善までできなければ高評価にはしない」

と判断する。

同じ評価基準を読んでいるのに、評価が違います。

これは評価者の能力が低いからとは限りません。

評価基準の言葉から想像している具体的な行動が、人によって違うからです。

人事制度では、文章を作っただけでは共通認識になりません。

「この会社では、この評価をどういう状態と考えるのか」

という認識を評価者同士ですり合わせる必要があります。

制度設計だけではなく、評価者への説明や評価会議などの運用まで含めて考えなければ、評価のばらつきはなかなか解消されません。

失敗例3.評価制度だけを変更してしまう

評価への不満が出ている会社では、

「評価制度をもっと分かりやすくしよう」

と考えるのは自然です。

しかし、評価制度だけを変更すると別の問題が起きることがあります。

例えば、新しい評価制度では成果を重視することにした。

ところが昇給は、これまで通り勤続年数を中心に決めている。

すると社員からすると、

「成果を出せと言われるけど、結局給与は年功的に決まる」

という状態になります。

また、管理職に高いマネジメント能力を求める評価制度を作ったものの、そもそも「管理職とは何をする役割なのか」が会社として定義されていないこともあります。

評価制度は単独で存在しているわけではありません。

等級制度、役職、給与、賞与、昇格などとつながっています。

一部分だけを変更すると、別の部分との矛盾が生まれることがあります。

なぜ、この3つの失敗が起きるのか

ここまでの失敗には共通点があります。

それは、制度を「紙の上」で考えすぎていることです。

制度設計の段階では、

「この評価基準なら公平だろう」

「この項目なら会社の価値観を表現できる」

「ここまで細かく決めれば迷わないだろう」

と考えます。

ところが現場では、

「忙しい中で本当に評価できるのか」

「管理職によって解釈が変わらないか」

「社員は自分に何を期待されているか理解できるか」

という別の問題が起きます。

制度上の正しさと、現場での使いやすさにはズレがあるのです。

このズレを小さくすることが、人事制度構築では非常に重要です。

人事制度は「最初から完璧」を目指さない

では、どうすれば失敗を防げるのでしょうか。

重要なのは、最初から100点の制度を作ろうとしないことです。

人事制度は、実際に運用して初めて分かることがあります。

「この評価項目は判断しにくい」

「この部署にはこの基準が合わない」

「評価面談に想定以上の時間がかかる」

「この評価結果を給与へ反映すると差が大きすぎる」

こうした問題は、設計段階ですべて予測できるものではありません。

だからこそ、

設計する。

実際に運用する。

問題を確認する。

必要な部分を修正する。

このサイクルを回すことが重要です。

特に初めて評価制度を導入する企業では、最初から細かく作り込むよりも、会社として重要な考え方を明確にし、運用可能なところから始める方がうまくいくケースがあります。

自社だけで制度を見直す難しさ

既存の人事制度が機能していないと感じたとき、評価項目や評価シートだけを修正してしまうことがあります。

しかし、本当の原因がそこにあるとは限りません。

評価基準なのか。

等級の設計なのか。

給与との連動なのか。

評価者の認識なのか。

運用方法なのか。

あるいは複数の問題が重なっているのか。

長くその制度を使っている社内の人ほど、「今の制度を前提に考えてしまう」こともあります。

実際の制度見直しでは、目の前に出ている不満を修正するだけではなく、なぜその不満が生まれているのかを一段掘り下げて考えることが重要です。

そこを整理しないまま制度を修正すると、数年後にまた別の形で同じ問題が出てくる可能性があります。

人事制度構築の成功とは、立派な評価シートが完成することではありません。

社長が社員に求めることが伝わり、管理職が評価でき、社員が「何を頑張れば評価されるのか」を理解できる。

そして、その仕組みを会社自身で運用し続けられる。

そこまで含めて、初めて「機能する人事制度」と言えるのではないでしょうか。


人事制度を作ったものの機能していない、どこを直せばよいのか分からないという場合は、制度そのものだけでなく運用まで含めて一度整理してみることをおすすめします。人事制度の構築・見直しについて、お気軽にご相談ください。

著者プロフィール

渡邉宏二|株式会社HRButler 代表取締役

人事評価制度の構築・運用支援および採用代行を専門とする組織人事コンサルタント。 営業担当者から営業責任者、人事担当者から人事責任者までを経験し、現在は経営者として組織運営にも携わる。 現場・管理職・人事・経営のそれぞれの視点を踏まえ、制度を作るだけではなく、実際に運用され成果につながる仕組みづくりを重視している。 中小企業を中心に、人事評価制度、等級制度、給与テーブルの構築・運用支援、採用支援を通じて、持続的な組織成長の実現を支援している。

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